レポート

銀行破綻で預金の4割が消滅!実例から学ぶ「預金者の自己責任」

2020.09.30

預金のリスクを知っていますか?

2010年9月10日ー。

この日、とある銀行が経営破綻し、一部の預金が預金者の元に戻らなくなる事態が起きました。その銀行の名は「日本振興銀行」。

この日本振興銀行、どのように設立され、どう破綻したのでしょう。そして、その時、預金者の預金はどうなったのでしょう。これは実際に日本で起きたお話です。

 

日本振興銀行の設立経緯

日本振興銀行は2003年に設立され、2004年に開業。設立当初は、金融庁の分類においては「新たな形態の銀行等」と位置付けられ、多くの期待を集めていました。

では、この日本振興銀行、設立までにはどのような経緯があったのでしょう。

 

はじまりは、東京青年会議所(東京JC)の例会

青年会議所は、全国に700程度ある社会貢献活動を行う公益団体です。麻生太郎氏や小泉純一郎氏、森ビルの森稔前社長、歌舞伎役者の市川團蔵氏などが出身者として有名ですが、多くの地域においては、企業の2代目・3代目が構成員であるケースがほとんどです。

そして、その青年会議所の中でも最も古い歴史を持つ東京青年会議所(東京JC)は、2003年に第一ホテル東京にて例会を開催。その場で、パネリストの木村剛(日銀出身)が「20億円集めれば銀行をすぐに作れる」と発言し、それが発端となり、翌2004年4月21日、東京都千代田区にて開業しました。

この時の金融庁の大臣は平中平蔵氏でした。

 

日本振興銀行の概要

日本振興銀行は、中小企業向けの融資、一般顧客の定期預金専門の銀行です。都市銀行同様、金融庁長官の監督を受ける、いわゆる本庁直轄銀行です。

全国銀行協会には準会員として加盟していましたが、日銀の当座預金を開設しておらず、決済性預金である当座預金・普通預金を扱っていないことが関係してか、全銀システムには非加盟でした。

資金の調達は、預金獲得と銀行株式の増資・出資。そして、貸出金の利息収入などで収益を得るビジネスモデルが特徴でした。

 

銀行が経営破綻。しかし、預金は保護されず

 

経営破綻の経緯

日本振興銀行は、設立当初からゴタゴタが続いていました。まず、設立資金20億円出資者の設立発起人で設立時に社長に就任していた落合氏は、木村氏などの役員らに銀行役員を解任されると、木村氏を告発。あまり良い船出ではありませんでした。

そして、2010年6月7日には一部業務停止命令を受け、同年の7月には検査妨害の疑いで元役員が逮捕。これにより定期預金の引き出しが続き、資産状況が悪化。9月の中間決算で1804億円の債務超過となる見込みとなり、東京地方裁判所に民事再生手続開始の申立てを行いました。

設立からわずか6年余りでの経営破綻でした。

 

当時の状況(店頭)

日本振興銀行本店(東京都千代田区神田司町)のドアはこの日、開くことはありあませんでした。代わりに、店頭のガラス壁の上に4枚の紙が張り出され、その下の4つの封筒の中にそれぞれ4種類の紙が入れられていました。

サイズはいずれもA4。1枚は預金保険機構の「お知らせ」。残り3枚は振興銀行自身のものでした。

「預金者のみなさまへ」と題された紙には、「元本1000万円までとその利息が全て保護されておりますので、ご安心ください」「破たん日までの利息をいいます」などと記載されていました。

 

当時の状況(ネット)

午後の時点で、日本振興銀行のホームページは「現在メンテナンス中のため、サービスがご利用いただけません。ご迷惑をおかけいたしまして申し訳ございませんが、時間を置いてから改めてご利用いただけますようお願いいたします」というメッセージが表示されていました。

しかし、夕方に復旧すると、そのトップの最も目立つ場所には「預金保険機構ホームページはこちら」というリンクが貼られ、さらに「当行に対する管理を命ずる処分について」と題する社長名義の「お知らせ」が掲載されました。そこには「貸出金についての貸倒引当金の計上、訴訟損失引当金の負債計上等の会計処理の結果」が債務超過に陥った直接的な原因として記されていました。

預金保険機構のホームページでもトップページの冒頭にて「重要なお知らせ」として、振興銀行に関する問い合わせの電話番号が案内され、さらに「現在当行は業務を一時的に停止していますが、来週13日(月)午前9時から営業を再開する予定です」などの記載のある書類が載せられました。

 

預金の4割が返ってこず

 

ペイオフとは

ペイオフとは、銀行や信用金庫など預金を取り扱う金融機関が経営破綻した場合、預金を元本1,000万円とその利息に限って保護する措置のことです。

そして、日本振興銀行の破綻により、戦後初のペイオフが発動。元本1,000万円とその利息に限っては預金者に戻されました。

一方で、清算は2016年まで行われましたが、結局、保護されなかった預金の弁済率は60.95686%で確定し、およそ40億円以上の預金が消える結果となりました。

 

「銀行債務すべて保護」の終焉

1971年に預金保険制度が設けられて以降、日本振興銀行経営破綻の前までに、預金がカットされて払い戻されたペイオフの前例はありませんでした。1994年から2003年にかけて、金融破綻は続発しましたが、どんな金融機関でも、どんな高利息でも、たとえ架空名義の預金でも、預金は全額が保護されました。さらに預金だけでなく、債券や借入、保証なども含め、金融機関の負債はすべて全額が払い戻されていました。

当時は、金融機関の経営実態や財務内容が覆い隠されていて、預金者に自己責任を問えるような状況ではなかったことが最たる理由でしょう。しかし、今は銀行の財務内容や業務内容などの経営内容を知ることのできる「ディスクロージャー誌」があります。こうした情報開示により銀行に関する情報が入手できるようになったため、預金者にも自己責任が問われるようになりました。

「銀行債務すべて保護」の終焉です。

実際、破綻処理のため国有化されていた足利銀行についても、それまでは例外的に預金の全額保護が継続していましたが、それも2008年に終了しています。

 

預金を守る対策とは

投資はリスクが高く、預金はノーリスク。

日本振興銀行の倒産を受けても尚、そのように考えてる日本人は少なくありません。しかし、預金にもリスクがあるのは先述の通りです。

では、どのようにして私たちは預金を守れば良いのでしょう。

その答えの一つには「預金を分散」があるでしょう。ペイオフの対象である「1金融機関につき1,000万円」まで預金しておけばリスクは減らせます。

あるいは、「投資」もその答えの一つでしょう。投資は全てがハイリスクなわけではありません。しっかりとリスクを知れば、ローリスクでリターンを得ることも可能です。

インベスターズビレッジは主に「投資」と「ビジネス」(経営・M&A)に的を絞って取り上げています。また、様々な分野への投資の知識と実際の流れをカリキュラム+テキストに加えて、実践でも学ぶことを大切にしています。

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